エンターテインメント

役所広司さんインタビュー「共感したのは“正義感”。生きづらさを抱えた人物でした」

2021.02.25

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役所広司さん

見えない、聞こえなりふりをしたままで、本当によいのか


おかしなことは見過ごせない。そんな三上が最初は煩わしかったケースワーカーや、興味本位で近づいたテレビマンの津乃田も、そのやっかいなまでの、彼の正義感の強さに次第に感化されてゆく。

「一観客として映画を観ると、三上の行動やことばには、いろいろなことを見ないふり、聞こえないふりをしながら、何となく安全に生きてきた自分に刃を突きつけるような、グサッとくるものがありました。原作の主人公は昭和16年生まれで、彼の若い頃は、学生が自分の信じる正義のために闘っていた時代です。当時、高倉 健さん主演の映画を観たその足で、デモに行っていた彼らのことを思うと、見えない、聞こえないふりをして生きることは本当によいことなのか、そんなことを考えさせられました」


また、『ゆれる』に注目して以来、作品を観てきた役所さんは監督について、「西川さんは是枝裕和監督が立ち上げた映画制作集団のメンバーです。是枝さんの映画制作は、効率はよくないかもしれないけれど、それが必ずフィルムに焼きつく、そんな非常に正しいつくり方がされているんです。是枝さんに学んだ西川さんにも、自分が必要とするカットについては時間をかけ、しっくりくるまでトライする粘り強さがあります。オリジナル脚本でやっているので寡作ですが、それだけこだわりを持っている監督の作品に参加することに、役者として、とても魅力を感じています」と評する。

主演はもちろん、他のキャストのアンサンブルも見事で、物語がどう展開するか、最後まで観る者を惹きつける本作。

「最近は、自分が最年長ということも少なくないのですが、橋爪 功さんと梶 芽衣子さんがいるだけで、僕は現場でリラックスできましたね。みなさん、非常に存在感のあるかたばかりで、現場で苦労している感じがまったくなくて。監督の演出は、キャスティングから始まっているのだと、そんなことも感じました」

役所広司/やくしょ・こうじ

1956年、長崎県出身。2014年「キネマ旬報 創刊95周年×KINENOTE 特別企画オールタイム・ベスト10」の男優部門で、現役でただ一人8位に入るなど、国内外の多くの映画祭で受賞を重ねる日本を代表する俳優。2012年に紫綬褒章受章。公開待機作として『峠 最後のサムライ』が控えている。



映画『すばらしき世界』


『すばらしき世界』

『すばらしき世界』©佐木隆三/2021 「すばらしき世界」製作委員会

13年間の刑期を終えて出所した三上正夫。身元引受人の弁護士夫妻の助けを得て自活を目指すものの、社会の変化やそのスピードの速さに適応するのは三上にとって容易なことではなかった。だが、そんな彼の正義感の強さは、周囲の人間にも影響を及ぼしてゆき……。

日本映画
監督・脚本/西川美和
原案/佐木隆三『身分帳』(講談社文庫)
出演/役所広司、仲野太賀、六角精児、北村有起哉、白竜、キムラ緑子、長澤まさみ、安田成美、梶 芽衣子、橋爪 功
公式サイトはこちら>>
2021年2月11日より全国公開
取材・文/塚田恭子 撮影/岡積千可 編集/山下シオン スタイリング/安野ともこ ヘア&メイク/勇見勝彦〈THYMON Inc〉 衣装協力/ポロ ラルフ ローレン(ラルフ ローレン)

『家庭画報』2021年3月号掲載。
この記事の情報は、掲載号の発売当時のものです。
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