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2016/12/01

菊乃井 村田吉弘「日本のこころ、和食のこころ」十二月 一汁三菜

菊乃井・村田吉弘 【日本のこころ、和食のこころ】 撮影=小林庸浩

本日の献立は、鰤の照り焼き、野菜の煮しめ、ほうれん草のごまあえ、
大根とお揚げのお味噌汁に漬物とご飯。
まさに絵に描いたような家庭料理。
季節の魚、野菜の素材を生かしながら、
焼いたり、煮たり、漬けたりと
さまざまな調理法でバランスよく仕立てる。
和食の基本がすべてつまっている。

十二月【一汁三菜】一汁三菜は、和食の基本形。宴会料理である本膳料理も、
茶懐石も、もちろん家庭の献立も一汁三菜が基になっています。白飯をおいしくいただくための、バランスのいいおかずとお汁。今月は継承されてきた日本人の食生活を考えます。

日本人の食事の基本パターンが一汁三菜。
季節のものを栄養バランスよくいただける

 一汁三菜の一汁は文字どおり汁物。和食やったら味噌汁が一般的やね。それにおかずが三種類。今日の献立でいうと、鰤の照り焼き、野菜の煮しめ、ほうれん草のごまあえ。ご飯と漬物は数に入れません。この一汁三菜は和食の献立の基本。例えば本膳料理なら、このあとにいろいろなご馳走のお膳が続きます。茶懐石もここにお酒を楽しむための八寸や進肴がプラスされます。ただ、目的はそれぞれ違う。家庭の一汁三菜はご飯を食べるためのおかずで、茶懐石は最後のお茶をおいしくいただくためのお料理であり、本膳料理は権力・権威の象徴としての役割を担っています。実際のところ京都の家庭で一汁三菜といったら、「今日はぜいたくやなぁ」といわれます。僕の子どもの頃は一汁一菜というのが普通やった。白いご飯に壬生菜とお揚げの炊いたん。これはだしもとらんと、だしじゃこを放り込んで一緒に炊いてしまいます。この炊いたん、京都の家庭ではほんまによう作られます。葉野菜をおだしをきかせた汁たっぷりで炊いたものは、それだけで菜であり、汁なんです。いかにもしまつな京都らしいでしょう。

季節を愛でる、食事を豊かにする
 この一汁三菜という日本の献立は栄養的にも、味覚的にもとても優れています。まず、季節の新鮮な野菜や魚介をその持ち味を大切にして料理するということ。旬ということは栄養的にもピークであり、味わいも最高です。それをいわゆる五味五法──切る、煮る、焼く、蒸す、揚げるといった調理法も変え、味つけも塩味、甘み、辛み、苦み、酸味と飽きさせない工夫があります。器も季節を感じさせる絵付けや、形、磁器や土もののバランスも考えて選びます。日々の食事といえど、いえ、だからこそ心を砕いて膳を調えます。季節を愛でる、食事を豊かにする。日本人のこまやかな心入れはこういったところにも発揮されるのです。

  • 五法──切る、煮る、焼く、蒸す、揚げるといった調理法

五法

  • 切る、煮る、焼く、蒸す、揚げるといった五つの調理法を五法といい、和食の基本的な調理法です。

  • 【切る】日本料理で特徴的な生もの。刺し身といえば、新鮮な魚介類を用いるのがほとんど。切り方で味わいも変わる。
  • 【煮る】世界のどこの国でもある調理法。日本料理では素材の味を生かしつつ、醬油や味噌で味つけすることが多い。
  • 【焼く】じか火の塩焼き、つけ焼き、照り焼きなどいろいろとあるが、単純なようでいて奥が深い調理法。
  • 【蒸す】水を沸かして水蒸気で加熱すること。火の入り方がやわらかく、素材を生かす調理法の一つ。
  • 【揚げる】熱い油の中で熱する調理法。比較的新しいもので、代表格の天ぷらは今や世界的に人気の料理である。

  • 「食事をいただく際は、感謝の心を忘れずにいたい」と村田さん。

    「食事をいただく際は、感謝の心を忘れずにいたい」と村田さん。

発酵食品こそ日本の食文化
 フランスの子どもは自分の育った地元のチーズをよくわかっています。食べ頃はもちろん、牛の乳でできたものか、山羊や羊なのか。これは食育の一環で土地のチーズ作りを見学して自分たちの食卓に上るものがどうやって作られているのか勉強するからです。日本にも漬物や味噌など、その地域ならではの産物で毎日のように食卓に上るものがあります。けれど日本の子どもたちはいったい何人が自分たちが食べている漬物や味噌のことを知っているんでしょう。漬物も最近は浅漬けがはやっていて、日本人はチーズの食べ頃は気にするのに、漬物はなんでも浅漬けにしてしまいます。漬物屋さんが「乳酸発酵したほんまの漬けもんは、最近は売れませんねん」と嘆いてはった。この乳酸発酵した漬物や、土地土地の味噌といった発酵食品こそ日本の食文化。各家々には自分の家の漬物、ぬか床があって、お姑さんからお嫁さんへ、孫へと伝承されていったもの。その家についた自然の菌が熟成させた、その家だけの漬物があったものです。京都やったらすぐきや日野菜漬け。手がかかってにおいもあるけれど、なんともいえん滋味がありますな。そしてこれが白いご飯によう合うんです。
 昔よく料理中の母に「乾物のかんかんとってんか」といわれたものです。缶の中にしいたけやかんぴょう、ゆば、ひじきといった乾物なんかが入っていて、普段の食事の常備菜やばらずしなんかを作るときに活躍したものです。和食の献立はこういった常備菜をうまく活用しています。作り置きしておけば立派な一品になるし、忙しいときに重宝するといった按配です。忙しい朝食なんかには特にいいですね。イギリスでもフランスでも朝食というと決まった形がある。日本もそうでしたが、最近は朝からピザという家庭もあるらしい。朝から食べたいもんを食べるということらしいですが、日本の朝食のスタイルというのも大事にして伝えていかなあかんものだと、僕は思っています。

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