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  • 菊乃井 村田吉弘「日本のこころ、和食のこころ」九月 醤油と味噌

2016/09/01

菊乃井 村田吉弘「日本のこころ、和食のこころ」九月 醤油と味噌

菊乃井・村田吉弘 【日本のこころ、和食のこころ】 撮影=小林庸浩

醬油ベースのたれで焼き上げる鶏のくわ焼き。
醬油の香ばしさ、深い味わいが楽しめる料理だ。

九月【醬油と味噌】この二つがなければ
日本料理は成り立たない──。
醬油と味噌は代表的調味料であり、
世界に冠たる「発酵」調味料です。
長い歴史が育んだ
日本ならではの味覚に注目です。

醬油と味噌は日本が世界に誇る発酵調味料。
各地方で洗練され、独自の味と香りが育まれました

 醬油と味噌がない食生活なんて考えられへんでしょう? 日本料理の味の基本はこの二つといっても過言ではありません。醬油、味噌それに酢、酒、みりんが日本の代表的な調味料。一番の特徴は発酵食品であるということです。特に醬油と味噌は古代から中世、近世にかけて各時代、さまざまな地方で発展をとげてきました。今回は醬油と味噌を中心に、調味料の話をしたいと思います。  日本はぐるりを海に囲まれています。ですから、まず生まれた調味料が魚介を煮詰めたソース。古代の調味料「以呂利」です。この名前は平城京遺跡から出土した木簡に見られ、平安中期に成立した最古の辞典『倭名類聚鈔』には、調味料類に「煎汁」の記述があり、これは「鰹以呂利」(かつおを煮詰めたソース)と解説されています。このいわゆる魚汁、漁醬は魚を食べる民族で広く作られ、料理に使われてきました。日本でも今でもしょっつる、いしるとして使われていますが、歴史の流れの中で大豆と麴の組み合わせによる「豆醬」が発達し、こちらがメインの調味料となっていきます。中世末から近世にかけて米味噌、麦味噌が作り出され、同時代に醬油が味噌から派生し、完成します。味噌の上澄み液をすくってなめてみたら、おいしかった。これが、醬油の始まりという話もあります。

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土地の味、家の味というものはいつまでも心に残る
 室町時代に茶道、懐石料理が生まれました。これが日本料理を発展させる大きな契機となりました。懐石料理の発達は素材の持ち味を尊重する傾向を強め、これが醬油の発展に一役買います。そして江戸時代になると、庶民の食卓にも醬油が上るようになるのです。醬油も味噌も、もとは米、大豆、麦、麴からできています。これが各地方でその土地の嗜好にあった製法、味わいとして発展していき、今でもその土地の味を形作っています。東京のかたが初めて京都にいらして白味噌のお味噌汁をいただいて驚かれた話や、逆に僕らが東京でうどんを食べてびっくりしたこと。お正月の雑煮がいい例で各地で、おうちでそれぞれの味がありますわな。旅行が日常茶飯になり、いろいろな土地の名物にも親しみ、簡単に知ることができるようになりました。宅配便も発達して全国のどんな食材も手に入りやすくなりました。そやけど育ってきた土地の味、家の味というものはいつまでも心に残りますし、大事にしていかなあきませんな。

日本人の経験値から生まれてきた調味料とその使い方
 醬油の焦げた香り。これは、たまらんもんがあります。落語ではありませんが、お醬油の香ばしい香りだけでご飯何杯でもいけてしまいそうや。まさに日本人のDNAに刷り込まれているといってもいいでしょう。「香り」というものは、学習なんです。例えば京都人には新そばの香りがわからない。それこそ最近は何度も経験してわかってきましたが、もともとはわからない。東京の人にとって京のお番茶は独特の薫香があると感じますが、僕らは赤ちゃんのときから飲んでますから、くせがあるとは感じないものなんです。ですから、日本人にとってええ香りと感じるお味噌やお醬油の香りが外国のかたにはええとは最初は感じられないものです。ですが、鴨肉を焼いてでた汁を煮詰めてソースにする、フォン・ド・カナール。これって醬油の味、香りが感じられるんです。というのは、鴨のたんぱく質(アミノ酸)、糖質を煮詰める(熱を加える)ことで茶色く変色しさまざまな香り成分を生み出します。これをメイラード反応といいます。そして熱によっておこしたメイラード反応を時間によっておこしたものが発酵調味料。ですから、醬油の味と香りが感じられるんです。醬油、味噌といった発酵調味料を味つけの主軸にもってきた日本人はやはりすごいです。メイラード反応というおいしさの魔法を調味料にしてしまったんですから。もちろん、栄養的な側面はいうまでもありません。新鮮なお刺し身を上等なお醬油でいただくのも日本料理の醍醐味で、これもお刺し身(イノシン酸)のうまみを醬油というグルタミン酸のうまみでさらにアップさせること。日本人の経験値から生まれてきた調味料とその使い方ですが、論理としても正しいことなのです。

  • 薄口醬油、再仕込み醬油、濃口醬油、白醬油、溜まり醬油。

    右上から時計回りに・薄口醬油、再仕込み醬油、濃口醬油、白醬油、溜まり醬油。

全国の醬油
 現在代表的な醬油は五種類あります。

  • 濃口醬油/全国で生産されている代表的な醬油。主産地は関東で、千葉県野田市や銚子市などが有名。塩分は約一八パーセント。
  • 薄口醬油/色を薄く仕上げた醬油。素材を生かすのに適し、煮物、吸い物などに使われる。塩分濃度は濃口より高い。
  • 白醬油/薄口よりさらに薄い色の醬油。色を薄くするため原料の小麦の比率を高めたもの。糖分が高く、香りがよい。
  • 溜まり醬油/原料の大部分が大豆。味噌玉麴を塩水に仕込んで熟成させる。濃厚で香りに重みがあり中部地方で好まれる。
  • 再仕込み醬油/塩水の代わりに生醬油を使って仕込むため、再度醸造した醬油という意味でこの名がある。溜まりよりさらに濃厚で刺し身やすしの醬油に使われる。別名甘露醬油とも。

  • 麦味噌、米味噌(白・京都の西京味噌)、豆味噌(八丁味噌)

    右上から時計回りに・麦味噌、米味噌(白・京都の西京味噌)、豆味噌(八丁味噌)。

  • 田楽用の味噌

    田楽用の味噌は焦がさないように練ることが大切。

全国の味噌
 日本各地で地域性を生かした味噌が作られてきました。味噌はその原材料と麴の種類によって三つに大別されます。麴と塩分の割合で味は辛口、中辛口、甘口に、大豆の加熱法で白色、淡色、赤色に分かれます。全国的には米味噌が最も多く、愛知県・岐阜県・三重県の中部三県は豆味噌、九州と中国・四国地方の一部が麦味噌を主に使用しています。

  • 米味噌/代表的なものは、東北・関東地方の赤系辛口、信州・北陸地方の淡色系中辛口、京都や讃岐地方の白色甘口。
  • 全国の味噌
  • 麦味噌/九州・中国・四国の甘口のほか、埼玉県や栃木県の辛口がある。
  • 豆味噌/大豆を発酵し、熟成させたものが豆味噌。八丁味噌が有名。ほかに三州味噌などがある。

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