野趣と雅が息づく美味を訪ねて。一流イタリア人シェフが旅する加賀【復興応援ランチ会開催】

〔特集〕復興応援企画　食のワンダーランド日本見聞録（石川編）　後編　
「グッチ オステリア ダ マッシモ ボットゥーラ トウキョウ」のヘッドシェフ、アントニオ・イアコヴィエッロさんが、日本の未知なる食材を求めて各地を旅する企画の第2弾。

今回は、2023年12月に石川県の能登と加賀を訪問。それぞれ独自の食文化が発展した滋味深い北陸の魅力を深掘りし、日本とイタリアを融合する新しい料理に挑戦しました。

しかしながら、2024年1月1日に発生した能登半島地震で、訪問した「一本杉 川嶋」、「鳥居醬油店」、和蠟燭の「髙澤商店」がある七尾市の一本杉通りや、「能登島自然の里 ながさき」の周辺など、各所が甚大な被害を受けられました。被災地の皆様には謹んでお見舞い申し上げます。


本特集では地域の食文化を脈々とつないできた方々への敬意と、復興への願いを込めて、取材当時のエピソードをそのままお届けいたします。

・［復興応援チャリティー企画］能登＆加賀に捧げるランチ会を開催！詳細・応募はこちら＞＞

・前編はこちら＞＞

---

【加賀】野趣と雅が息づく美味を訪ねて

古の風情漂う七尾市一本杉通り。しばしの散策の合間に、蠟燭店「髙澤商店」を訪れて。詳しくは前編にて。

〔旅するシェフ〕アントニオ・イアコヴィエッロさん
イタリア・カンパーニア州出身。2021年に来日、同年10月「グッチ オステリア ダ マッシモ ボットゥーラ トウキョウ」ヘッドシェフに就任。日本の食材を駆使した新イタリア料理で高い評価を得、「ミシュランガイド東京 2024」で1つ星、「50 Top Italy 2024」で2位。

坂網鴨／料亭山ぎし 山岸和伸さん
猟師の料理人が幻の鴨を守る

「料亭山ぎし」の名物、「鴨治部すき」。鴨の骨と醬油、みりん、酒でやや甘めに仕立てただしで、もも、むね、つくね、すだれ麩、野菜を味わう。わさびを合わせると一段と美味。

戦国時代には勇壮な武士が天下統一のために働き、前田家が統治して以降は工芸や学問が発展した加賀藩。その名を今も受け継ぐ加賀には独特の文化が息づいており、食もまたその例に違わず、類いまれな料理文化が受け継がれてきました。大聖寺発祥の鴨料理もその一つです。

1877年に創業した「料亭山ぎし」は魚屋として始まりましたが、鴨は魚屋で扱っていたことから、やがて鴨料理を提供する料理屋に。往時は界隈に鴨料理屋が多くありましたが、今ではごくわずか、特に伝統の坂網猟による鴨を料理するのはこちらを含めて2軒のみです。

鴨は焼いて提供するのが主流だった昔、先代が治部煮からヒントを得て始めた「鴨治部すき」。坂網鴨は餌を食べる前に捕まえるので臭みがなく、鴨本来の繊細な味わいが楽しめるという。

６代目である山岸和伸さんは自らも坂網を操る猟師として、自然の命をいただき料理することの覚悟を持って臨んでいると語ります。食材を通して文化を伝えることを信条とするアントニオさんも山岸さんの言葉に同じ思いを感じると笑顔。イタリアとは全く異なる料理法である「鴨治部すき」を味わいながら、鴨談義が繰り広げられました。

11月〜2月末限定の坂網鴨のコースの一部。猟次第なので予約に応えられないこともあるとのこと。

料亭山ぎし
住所：石川県加賀市大聖寺東町2-24
TEL：0761（73）1177

大聖寺藩の武士の冬の鍛錬「坂網猟」

鴨猟は古来、各地で行われてきました。その多くは飛び立つところを網で捕獲する方法で、今なお皇室に受け継がれている猟法もあります。

加賀国大聖寺で元禄時代に始まり、文化年間に武士の鍛錬のために盛んに行われたのが坂網猟。冬の到来とともに片野鴨池に渡ってきた鴨は、日中は池で過ごし、宵闇の頃に餌を求めて飛び立ちます。そこを狙ってY字形の網を真上に放り投げて捕えるのです。網は固定されておらず鴨がかかると袋状になって包み込み、傷つけずに捕獲できるのが特徴。

若手組合員が坂網を訓練中。目標に向かって網を投擲（とうてき）。

現代では、その他の伝統猟はほとんど廃れてしまいましたが、坂網猟は県の有形民俗文化財に指定され、30人ほどの組合員によって伝統と技の継承が図られています。

片野鴨池はラムサール条約湿地に登録された保護区。